たまたま芝のあたりを歩いていたときのこと。「ん?こんなところに、お茶のお店?」と思わず足が止まりました。芝3丁目、住宅街の一角にある「鈴の茶」。外から見ると、昔ながらのお茶屋さんというより、ギフトショップのようでもあり、作業場のようでもあり。これは気になる。ということで、ほぼその場の勢いで取材をお願いしました。

鈴の茶は、オンライン販売を中心にスタートした、日本のお茶を扱うブランド。現在は芝3丁目に、試飲販売スペース兼お茶倉庫を構えています。

代表を務めるのは、紀伊礼子さん。もともと大手通信会社で10年ほど働いたのち、子育てが落ち着いたタイミングで、伝統工芸や器、花、そしてお茶に惹かれるようになったといいます。「行く先々で器や工芸品を集めるうちに、それに合うお茶がほしくなって。その探す時間自体が楽しかった」。そこから日本茶を学び、お茶屋さんで働きながら、日本茶インストラクターの資格も取得。2023年に起業し、その後販売をスタートしました。

抹茶ではなく、日常のお茶を
いま、日本茶といえば抹茶を思い浮かべる人も多いはず。海外需要も高まり、抹茶人気はますます広がっています。ただ、鈴の茶では、流行している抹茶をあえて中心にはしていません。扱うのは、煎茶、和紅茶、和烏龍茶、釜炒り茶、ほうじ茶など。日本各地で作られている、個性豊かなお茶たちです。
紀伊さんが大切にしているのは、味の違いだけではありません。どこで、誰が、どんな思いで作っているのか。そのお茶が、どんな茶畑から来たのか。実際に全国の茶農家や茶問屋を訪ね、生産者に会い、茶畑を見て、納得したものを選んでいます。
希少なお茶もある一方で、紀伊さんが本当に届けたいのは、まだ日本茶にあまりなじみのない人たち。ギフトでもらったり、パッケージに惹かれて買ったりしたことをきっかけに、「お茶って面白い」と思ってもらえたら。そんな入口をつくりたいのだそう。
穏やかなのに、熱がある
お話を伺っていて印象的だったのが、紀伊さんご本人の空気感。語り口はとても穏やか。でも、お茶の話になると、茶葉のこと、生産者さんのこと、缶の色、箱の作り、ティーバッグの素材、燕三条のクリップまで、次から次へと話が広がっていきます。熱量がすごい 笑
しかもその熱が、押しつけがましくない。「これが正解です」ではなく、「こんな楽しみ方もありますよ」「その時の自分に合う飲み方でいいんですよ」と、そっと隣に置いてくれる感じ。田町新聞、日本茶に詳しいわけではありません。なので、専門店で話を聞くのにちょっと緊張していたのですが、紀伊さんの話を聞いていると、むずかしい作法の世界というより、「今日はどれにしようかな」と選ぶ楽しさのほうが先に立ってくる。ああ、この人からお茶を買ったら、選ぶ時間まで楽しいんだろうな。そんなふうに思わせてくれます。
パッケージまで、かなり本気です
鈴の茶さんのお茶を見てまず印象に残るのが、パッケージのかわいらしさ。缶も、箱も、鈴も、かなり細かく作り込まれています。

紀伊さんいわく、自分がお茶を作るわけでも、茶葉を育てるわけでもない。だからこそ、自分ができることとして、パッケージには思い切って力を入れたそう。缶はサイズだけでなく、色づくりからメーカーの職人さんと相談。箱は国産の手貼り。ギフトには鈴を添えています。

さらに驚いたのが、袋入りのお茶につけるクリップ。たとえば「柚子ほうじ」は、甘くしっかりしたほうじ茶に、長崎県多良見産の柚子皮を合わせたお茶。茶葉が大きく、缶ではなく袋に入れる必要があったことから、袋のパッケージを作り、燕三条の職人さんにオリジナルのクリップまで依頼したそうです。茶葉を一枚たりともこぼしてほしくないから、とのこと。そこまでやるんですか!

でも、この「そこまで」が紀伊さんらしさなのかもしれません。贈る人にも、受け取る人にも、きちんと気持ちが届くように考えられています。
お茶は、もっと自由でいい
取材中、印象に残ったのが「お茶の淹れ方」の話でした。日本茶というと、美味しく淹れるには適切な温度や時間を守らないといけないような気がしてしまいます。でも紀伊さんは、作法に縛られすぎなくていいと言います。

お湯の温度が高ければ、渋みや苦みが出やすい。低ければ、旨みが出やすい。茶葉の量が多ければ濃くなり、少なければ軽くなる。それを知ったうえで、あとはその時の自分に合わせればいい。二日酔いの朝にピリッとしたいなら、少し高めの温度で。昼休みのあと、ほっとしたいなら、少し温度を下げて。忙しい日は、キッチンに立ったままでもいい。
縛られなくていい。そう思えるだけで、お茶との距離がぐっと近くなる気がします。
ギフトにも、自分用にも
日本茶は賞味期限も比較的長く、贈り物にしやすいもの。それでいて、パッケージが美しく、選ぶ楽しさもある。「いつもの手土産、ちょっと変えたいな」という時にもよさそうです。
そしてもちろん、自分用にも。和紅茶や和烏龍茶は、日本の食べ物やお菓子にもなじみやすく、冷たくしても、炭酸で割っても、お酒と合わせても楽しめるそう。お茶って、思っていたよりかなり遊べるんですね。
芝3丁目で偶然見つけたお茶のお店。試飲もできるので気になった方はぜひ一度、紀伊さんに相談しながら、自分に合う一杯を探してみてください。