パンとエスプレッソとで、アートに出会う。芝浦で始まった、全国初の試み

芝浦4丁目、旧海岸通り沿いにあるおしゃれなパン屋さん「パンとエスプレッソと」が、12月にリニューアルしました。
その名も、「パンとエスプレッソと芝浦ギャラリー」。

これまでの“パンとコーヒーのお店”という顔はそのままに、新たにギャラリー機能を併せ持つ空間へと生まれ変わっています。

今回取材に応じてくれた株式会社日と々との松林さん（左）、現代アーティストのNacharaさん（中）、株式会社アートリープの西田さん（右）

芝浦から始まった、全国初のプロジェクト

このリニューアルをきっかけに始まったのが、株式会社日と々とによる新しいプロジェクト「パンとエスプレッソとアートと」。

パンを選び、コーヒーを待ち、席に座る。

その何気ない時間の中に、アートが自然と溶け込んでいる。そんな日常をつくっていこう、という試みです。

この取り組みは、株式会社日と々とが展開する全国に50以上ある店舗（パン、クレープ、カフェ、ジェラート等）の中でも初の試み。記念すべきスタートの場所が、ここ芝浦になりました！

このプロジェクトを担うのが株式会社アートリープ。オフィスや自宅にアートを飾るアートプログラム「Art/Hack（アートハック）」を提案し、“日常の中でアートと出会う仕組み”をつくってきた会社です。

「僕自身は美術畑出身の人間ではないんです。だからこそ、ギャラリーって少し入りづらいな、アートがもっと身近に、手に取れる存在になったらいいなと思っていました」とアートリープ代表の西田さん。

たしかに、田町新聞もアートを見たり、買ったりするのはちょっとハードルが高いというか、背伸びをしているような感覚があるかも。

ふだんパン屋さんに入る感覚のまま、アートにも出会える。その自然さこそが、このプロジェクトの大切なポイントです。

パンとコーヒーのすぐ隣に、アートがある風景

「誰の作品かわからない」「値段がわからない」「そもそも、どうやって見ればいいのかわからない」。そんなアートとの距離感をなくすため、展示されている作品には値札がつき、音声ガイドも用意されています。

パンを食べながら、コーヒーを飲みながら、ふと壁に目を向ける。

ここでは、アートが“わざわざ見に行くもの”ではなく、“そこにあるもの”として存在しています。

この新しい取り組みのこけら落としとして、2026年1月31日まで開催されているのが、現代アーティスト Nacharaさんによる個展「芝浦デイドリーム」。

今回の展示で店内に並ぶ作品は、油絵9点、版画作品1点、ドローイング7点。パン屋さんとしての空間の中に点在するように展示されているので、パンを選びながら、席を探しながら、「あ、ここにもある」と見つけていく感覚も楽しいところ。

何と言っても目を引くのが、幅2.4メートルを超える巨大なペインティング。この作品は、額装家の方が今回の展示のために協力し、Nacharaさんの代名詞でもある16：9の画角に合わせて制作・展示されたものです。

パンを食べる人、コーヒーを飲む人、会話を楽しむ人。そのすぐ隣で、巨大な作品がどっしりと存在している。この風景こそが、今回の展示のいちばんの見どころかもしれません。

今回の個展に合わせて、Nacharaさんはリトグラフによる版画制作にも初挑戦。アルミ版を8版重ねた、繊細な仕上がりは見逃せません。

実はNacharaさん、田町新聞が運営する印刷体験の場「NOT GUTTER」の初期からの利用者さん。一緒にイベントに出店したり、Webのモデルをお願いしたりと、これまで何度もご一緒してきました。

そんなNacharaさんが、NOT GUTTERがあるSHIBAURA HOUSEのすぐご近所で、しかも全国初の取り組みのオープニングを飾ることになるとは。ご縁を感じずにはいられません。

これから、この場所が育っていく楽しみも

「常連さんや社内からの反応もすごく良くて」そう話すのは、株式会社日と々と 東日本本部マネージャーの松林さん。

パンとコーヒーは、日常の中の“ちょっとした贅沢”。そこにアートが加わることで、毎日来ても、少しずつ違う表情が生まれています。今後は、展示に合わせたコラボメニューやコラボパンの展開も予定されているそう。楽しみがどんどん増えていきそうです。

このプロジェクトは、1〜2か月ごとに展示アーティストが入れ替わる予定で、芝浦以外の店舗への展開も視野に入れているとのこと。ふだんお店を利用している人が新しい楽しみを見つけたり、アート目当てに訪れた人がまちを歩いてみたり。周辺の店舗や施設とのコラボレーションを行ったり。

このリニューアルは、単なるアート展示にとどまらず、まちの風景そのものを少しずつ変えていきそうな気がします。

まずは気軽に、パンを買いに、コーヒーを飲みに。
その先に、思いがけないアートとの出会いが待っているかもしれません。